CRMで進化する小売業の販促戦略セミナーレポート 小売業におけるCRMの現在地~国内の成功事例と海外トレンドの比較~

近年、小売業界においてもCRMの重要性が高まり、顧客体験の再構築が求められています。そこで、小売業界におけるCRMの現状と国内外の成功事例についてセミナーを開催いたしました。今回のセミナーではカスタマーサクセス室の能藤より、コロナ前後での顧客体験の変化や取り組むべき施策について解説いたしました。

小売業におけるCRMの現状

直近5年間は、小売業のDXが大きく前進した期間だと考えています。コロナの状況下で、企業が利益を積み増し、様々な投資を行うタイミングでした。また、オンプレミス環境からクラウド環境への移行により、データの連携がしやすくなった事例も各社で見られたのではないでしょうか。

このようなDXの進化に合わせて、マーケティングも複雑に多彩化しました。認知形成から来店、購買までの各段階で、店舗や商品に対する理解を醸成し、総合的な満足度を高めてリピートにつなげる必要があります。

そのために、マーケティング領域では、リアルの場合は紙チラシや店頭陳列、オンラインでは公式SNS、インフルエンサー、メルマガなど、様々なチャネルで販促を行っています。しかし、小売業では企業内の部署が縦割りになっていることが多く、各所がそれぞれに動くことで、一貫性のある施策を構築するのが難しい状況があります。さらに、ひとつひとつの施策の振り返りに限定的なデータを用いると、波及的な施策の効果や成果の把握が難しくなります。

そこで、販促施策やツールを繋ぎ合わせて顧客の購買体験を再構築していくことが重要です。国内企業の多くでは、アプリが様々な体験を繋げるツールとして活用されています。アプリを通じて、プッシュ通知で興味関心を引き立て、会員証だけではなくクーポン、アンケート、商品レビューなどで顧客との双方向のやり取りの中で体験を盛り立てることができます。

このように、CRMではひとつひとつの顧客体験向上のための施策を大きく束ねて分析し、施策の効果を評価します。誰に受け入れられたのかを様々な手法で分析し、最適化していく必要があります。その際に、入店から購入まで連続したデータを集約し、体験の連続性とそれを分析する仕組み、施策の最適化を検討する、この流れを個々の販促担当者が分析するだけでなく、組織を横断した一つの顧客体験プロセスとして評価を行える仕組みづくりが重要です。

国内と海外のCRMの違い

ここからは国内と海外のCRMの違いについて考えてみます。日本は、海外に比べ小売業やメーカーの事業社数が非常に多いのが特徴です。そのため、同業他社からいかに新規顧客を獲得するかが重要で、そのためのコストが各社で多くなっています。これが日本の事業が軌道に乗りづらい要因の一つかもしれません。

改めて、よく言われている二つのマーケティングの法則について取り上げます。

15の法則に関しては、新規顧客に販売するコストは、既存顧客に対して5倍のコストがかかるということを意味しています。せっかく新規顧客を獲得しても、リピートする可能性が相対的に低いことが考えられます。特に日本では、少子高齢化が進み人口減少が見込まれる中で、新規顧客をいかに獲得していくかに注力している企業が多いですが、新規獲得の精度を最適化し、リピートする可能性が高い顧客に絞り込んでいくことも課題ではないでしょうか。

もう一つが、525の法則です。離反率を5%改善できれば、利益率は25%以上改善が見込まれるという内容です。11人の顧客がファン化して長期的に継続していただけると、LTVの期待値がより大きくなっていきます。小売業などは、同じ場所で2030年と長期に同じ地域の顧客に対してビジネスをしていくのが事業の特徴ですので、長期目線での顧客の期待値が見込みやすい部分だと思います。ただ、単年ごとのKPIなどになると、長期目線での利益率改善が正確に評価しづらい状況にも繋がっているので、長期的な視点でのKPIも設定することで、新規獲得と継続率の拡大を事業として落とし込んでいけると考えられます。

新規顧客獲得と継続の為の施策を考えてみると、国内企業では、アプリのリニューアル時などに初回クーポンのバラマキが多く見られます。初回の大きな割引の後は、値引きがなくなり高く感じてしまったり、同業他社の初回特典を狙って横展開していくことで、一つの会社にとどまらない状況が多くなっています。一方、海外では初回獲得にそこまで予算を割かず、ポイント還元率や特定の顧客への特典などで、継続したくなるような目的を持ったロイヤルティプログラムで顧客を離さない工夫をしている点が大きく違います。

国内の成功事例

関西スーパーのお財布カード

まずは国内の成功事例として、関西スーパーのお財布カードです。お財布カードはポイントシステムの一種で、お買い上げ金額に応じて割引が適用されます。最上位の5万円以上のお買い上げで2.5%引きと、一般的な小売店のポイント還元率は0.5%程度なので、かなりお得な設定になっています。大人2人、子供12人のファミリーであれば、日々の食事をスーパーで買えば5万円を超えることも多いと思います。そのため、多くの方が2.5%引きの恩恵を受けていると考えられます。

また、一度2.5%の割引を体験すると、下のステージに落ちたくないという心理が働きます。今月も5万円以上の買い物をしてステージをキープしようとしたり、1ヶ月後に必要なものを前もって購入したりと、お客様自身が積極的に割引を維持するための行動を取るようになります。これは単なるネガティブな買い物ではなく、自分に必要なものを売り場で体験しながら選ぶことができる、ポジティブな取り組みだと言えます。

ユナイテッドアローズ

もう一つの事例は、国産アパレルブランドのユナイテッドアローズです。2023年にロイヤルティプログラムを大幅にリニューアルしました。
ポイントの付与方法が特徴的で、アプリのインストールやメール受信設定、お気に入りの登録などの行動に対してマイルが付与されます。お客様自身が必要なものを選び取ることでマイルを獲得できるので、こちらもポジティブな体験になっています。

さらに、アパレルならではの取り組みとして、自分に相性の良さそうなスタッフを探せる機能もあります。お客様主導で購買に繋がりやすい商品を選べるので、通知が届いた際の開封率も高くなります。衣服は生涯必要なものなので、付き合いの長いビジネスモデルです。会員ステージが上がるごとにシークレットイベントへの招待やお直しの割引など、ブランドへの愛着を深める特典が用意されています。

CRMの再設計における重要点

最後に、CRMを再設計する際には、まずゴール仮説を設定することが重要です。例えばアプリであれば、アプリ内で何を実現するのか、そのために必要な情報は何かを考えます。過去、現在、未来を見据えて、どのような成果を目指すのか、そのためにどんなKPIを設定するのかを検討し、実績が出た後は、単に新規会員数が足りないだけでなく、要因を分析し、どのようなアプローチが必要かを考えます。

つまり、CRMの再構築においては分析仮説の再構築と実績作りを繰り返すことが重要になるということです。

カスタマーサクセス室のご紹介

カスタマーサクセス室では、当社システムの活用促進のための勉強会や新サービスのご紹介などの業務をはじめ、小売とメーカーと共同のMD協議会に参加したり、プライベートブランド商品やデリカの開発プロセスに深く入り込んだご支援も行っています。
お客様の状況や目指すところを1社1社伺いながら、ご一緒できる点を模索していきますのできますので、是非、様々なご希望を弊社担当にお寄せください。

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登壇者プロフィール
データコム株式会社 カスタマーサクセス室 室長 能藤 直輝
2004年以降、日本旅行、富士ゼロックス、セガにて、CS、経営管理、新規事業開発、セールス等の部門長を歴任
小売業との関わりは2014年以降、コンサル企業や位置情報ベンチャー企業にて、事業戦略の策定やデータ分析支援など幅広く担当