Shoptalk2023 日本の半歩先を行く?ヨーロッパリテールトレンド
Shoptalk Europeとは?
2023年5月にスペイン・バルセロナで開催されたヨーロッパ最大級の小売業界向けカンファレンス“Shoptalk Europe”についてレポートします。日本での認知度が高い世界最大級のイベント“NRF※1 Retail Big Show(ニューヨーク)”と比べると規模はかなり小さいものの、各社の取り組み事例が多く紹介されている印象で、具体的な成功・失敗要因を学ぶことが出来ました。また、本カンファレンスは、同年3月にアメリカ・ラスベガスで開催された“Shoptalk”の流れを汲んでおり、テーマも同じため、アメリカとヨーロッパを対比させながら情報を得られます。
1.What does best-in-class shopper engagement look like ?
1最高な顧客エンゲージメントとは一体どんなものか
2.What emerging channels will deliver growth for my business ?
2ビジネスに成長をもたらす新興チャネルとは
3.How do I deliver an outstanding store experience ?
3どのようにして卓越した店舗体験を提供するか
4.Which tech investments will boost my revenue and profitability ?
4どの技術に投資することが売上・利益を引き上げるのか
5.What organizational changes will help me win ?
5どのような組織変化が勝利に繋がるか
※1 National Retail Federation(全米小売業協会)の略称
コロナ禍を経て小売業に求められる変化
今回の開催地スペインを含め、ヨーロッパ各国では約1年前よりコロナとの共存へ移行、この1年は小売各社が生活者との新たな接し方を模索した期間であったと言えそうです。街を見渡してもマスク着用者は皆無、通りや店には活気が戻り、既に日常生活を過ごしていることが伺えます。一方、依然としてEC市場が伸長。スペインにおける今年の売上成長率(予想)が実店舗1%なのに対し、EC市場は5%※2となっており、コロナ以降も生活者がオンラインを介した買い物を取り入れていることが分かります。
従って、小売各社は変化する生活者の行動様式を理解しながら、エンゲージメントを高める新たな方法を構築する必要が出てきています(上記 テーマ①)。テーマ②では最高の顧客エンゲージメントを構築するにあたり、店舗・オンラインそれぞれの役割が重要な論点の一つになっています。テクノロジーの進化により、生活者の生活様式が多様化・高度化しました。商品を探す・出会う・知る・買うなど、それぞれの場面によって求める情報や環境が異なります。最大のアセットである店舗での体験を維持・向上させつつ、自社EC及びSNS・デリバリーなどの新興チャネルを巧みに活用することで、どんなニーズにも応えられる体制が整い、成長が果たせるでしょう(同 テーマ②、③)。但し、これまでのやり方や考え方だけでは売り上げや利益を引き上げるための変化は難しいです。したがって、テクノロジーをテコとして、組織一丸となって取り組まなければなりません上記のような組織変化を柔軟に取り込むことで、組織全体の勝利へと繋がっていくのです(同 テーマ④、⑤)。
※2 イギリス調査会社 Euromonitor調べ
カルフールの事例
フランス最大手のSMチェーン・カルフールのCDOであるValerie氏は、「複数チャネルを利用する顧客の利益貢献は、単一チャネルを利用する顧客に比べて20%高い」との事実を説明し、接点を増やすことの重要性を強調しました。更に、「ルーティンの購入において、80%の人が12分以内に買い物を終わらせたがっている」との調査結果を引用し、購買データ解析により、EC上でリピート見込の商品を提示することで買い物時間を40%削減していると述べました。
一方で、顧客が“インスピレーション”を求めていることにも触れ、検索された商品に対して、類似する“最安値商品”や“最も健康的な商品”を推奨するボタンを搭載したことをアピールしました。最後に同氏は「我々はGenerative AIに注力しており、半年ほど前から優先度が上がっている。顧客体験の向上と我々自身の業務効率化に資するに違いない」と述べ、AI領域への投資姿勢を示しました。そして、組織としてAIを活用していく上で、オペレーション及びOKRの再設計は必須で、昨年から取り組んでいると話しました。
おわりに
カンファレンスのイメージを持って頂くために、カルフール社を事例として取り上げましたが、全体を通して小売やメーカー等が上記の観点を意識して取り組みを進めているように感じました。アメリカと異なり、ヨーロッパ各社は“Try and Learn”という表現を多用していたことが印象的で、技術の力で一機に変革を進めるというよりは、まずは小さく着手してみて、改善を行っていく傾向が強いようです。日本においても、様々な事例を学び、必要と思われるものを小さく実行に移しながら、定着を図っていくべきでしょう。
執筆者プロフィール
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
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