オンライン上に有益な機能を構築し継続的な顧客との接点を創ろう~最先端アメリカのリテーラーに学ぶ取り組みの実際~(前編)
リテールメディアにビジネスとして取り組むには、多くのことを考える必要があります。
データを活用するためには顧客からの"信頼"が最も重要になりますし、
オンライン上に効果的に顧客との接点を創ること、そして売場を広告効果の高い場にする工夫も必要です。
今回は、海外リテーラーの取り組みを参考にしながら、成功の鍵について考えます。
リテールメディアの現在地
近年、「リテールメディア」という言葉を見聞きすることが増えました。
5 年ほど前からチラホラと出てきたかなというのが筆者の記憶です。
グローバル全体で見ると、Amazon社が2012年に開始した
ECサイト上での広告( 旧:Amazon MarketingService、現:AmazonAdvertising )が始まりといわれています。
その後、2017年頃からオフラインを主戦場とするWalmart社もサービスを開始。
以降はオンライン・オフラインいずれの小売事業者も追随し、
アメリカでは小売業にとって重要な事業として確立し始めました。
一方、アメリカ以外の国では、リテールメディア事業はまだまだ黎明期であり、日本もかなり出遅れている状況です。
図表①は、Google Trendsを用いて、直近10年間の「リテールメディア( Retail Media )」の検索状況をグラフ化したものです。
比較対象として、世界最先端アメリカ、欧州先進国フランス、そして日本を取り上げています。
2022年以降、各国ともリテールメディアへの関心が強まっていることが分かります。
その背景には、大きく3つの社会的変化が影響しています。
1つ目は、グローバル全体でプライバシーに対する強化やCookieの廃止などの流れがあることです。
これまでターゲティングに利用していたサードパーティデータなどが規制されたことで、
小売業が保有する購買データや顧客データなどのファーストパーティデータを用いた広告配信が重宝され始めました。
2つ目は、生活者のオンライン移行です。
コロナ蔓延を経て、ECはもちろん実店舗型小売業のネットストアも生活に根付いたことで、
コミュニケーションと購買の環境を一気通貫で築けるリテールメディアが重要視されるようになりました。
そして、3つ目は原材料高やインフレの影響による収益の悪化です。
広告主であるメーカーの立場からすると、広告宣伝費や販売管理費が抑制されるなか、
マス広告などよりも効率的にターゲットにリーチできるリテールメディアは魅力的です。
媒体提供者である小売業の立場では、本業の物販とは異なる新たな収益源を創ることになるため、
収益性の向上が期待できます。
本業の利益率が1桁台なのに対し、リテールメディア事業の同値は50~70%といわれており、いかに収益性が高いかが分かります。
一方、日本の反応はアメリカとフランスよりも低く、取り組みが遅れていることが明らかです。
逆に、アメリカでは直近 10 年の検索ボリュームが、2023年の約半数( グラフ内50前後 )で推移しており、
もはやここ1、2年のバズワードではなく、他国に先駆けて、関心が寄せられていたと言えそうです。
では、実際に市場規模はどこまで成長しているのでしょうか。
グローバル全体の規模は約12兆円。
テレビ広告の市場規模が約26兆円なので、10年余りで約半分に迫る勢いです。
なお、約12兆円の市場規模に対して、アメリカだけで約6兆円。かなりの牽引力です。
アメリカには及ばないものの、欧州全体でも1兆円超まで成長し追随しています。
一方で、日本の同値は135億円程度にとどまり、後れを取っています。
ここからは、アメリカ小売企業の事例を考察しながら、リテールメディア事業の成功に必要なポイントを探っていきます。
その後、日本の小売企業が直面する課題や今後の対応について考えていこうと思います。
アメリカの事例
最先端アメリカのリテールメディア市場では、Amazon社がシェア約80%、次いでWalmart社が続く構図となっています。
上位2社の状況などについては他での言及も多いですので、ここではアメリカのWalgreens社の事例に触れていきます。
普段あまり聞きなじみのない事例を考察することで、超大手のみによる局地的な流行ではなく、
一般化され始めた事象であることが感じられると思います。
同社は、アメリカをはじめ世界各国に約1万3000店を持つ世界最大級の薬局チェーンです。
2020年11月にこれまでのロイヤルティプログラムおよびアプリを大きくアップデートした「 my Walgreens 」をリリース。
コロナワクチン接種・検査予約に対応することで、多くの生活者から支持を得て、普及を加速。
その後も、同社が取り扱う日用品や薬品などに関するコミュニケーション接点として確立させ、
今では1億人に迫る会員を集めています。
コロナ蔓延から約半年でリリースするスピードの速さはさすがです。
2023年3月にアメリカで開催された小売業界向けイベント「 Shoptalk2023 」に登壇した
デジタルコマースVice PresidentのStefanie KruseCurley氏もロイヤルティプログラムに言及。
「 最も投資している領域の一つが、パーソナライゼーションである。
( 中略 )ロイヤルティプログラムを通して、顧客に関する情報が増え、インサイトが分かるようになった。
われわれとパートナーは、適切なタイミングで、適切なメッセージを顧客に届けられるようになった。
健康状態および対応策のニーズを推測しながら、あるときは免疫を高めるようなビタミン剤に関してのメッセージを送り、
またあるときはワクチン接種に関するお知らせを送るといった使い方ができる 」と説明しました。
そして、2020年12月に同社のリテールメディア事業が開始。
特筆すべきは、同社のリテールメディア事業がオンサイト( Walgreens のページ内 )広告だけではなく、
オフサイト( 外部ページ )広告にも対応して開始したことです。
多くの小売事業者は、自社のページ内あるいは店頭サイネージなどへの配信のみを主眼として着手します。
一方で同社の考えは大きく異なります。
広告主となるメーカー自身が独自で顧客データを集めていることを理解しており、
「閉ざされた空間( =小売1社 )」でしか活用できないデータでは、この時代において意味がないと考えているようです。
セキュリティに配慮し、Walgreens社が保有する約1億人の会員データを匿名化しながら、
メーカーなどの広告主が自由にDSPに接続することを可能にしています。
もちろん、オンサイトであるWalgreenのネットストア上にも、顧客に応じた広告を出すことが可能です。
Walgreens社の例は、日本の小売業にとっても非常に学びが多いものです。
自社が保有する店舗、リテールメディア媒体、データといったアセットそれぞれを
どのように価値化、マネタイズすべきかをしっかりと考えた好事例と言えます。
Amazon社やWalmart社のリテールメディア責任者もよく言及することは、
リテールメディアに充当されるメーカーの予算は、小売業に対する販促金などの予算の域を超えて、
マーケティングの予算になりつつあるということです。
それゆえに、メーカーが高い効果を感じられれば、より一層予算を投下することになるでしょう。
逆に言えば、効果が低いと判断されれば、予算削減や利用停止もあり得るということです。
日本においても、本腰を入れてリテールメディアに取り組むのであれば、その意識を強く持つ必要があるのではないでしょうか。
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
こちらの記事は、販売革新11月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:販売革新2023年11月号
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