2020年以降の顧客行動の変化と商圏再定義の必要性

近年、店舗ビジネスにおいては、商圏の変化に伴う新たな課題が浮上しています。コロナ禍による消費者の行動変容は、小売業界に大きな影響を与えており、店舗運営の在り方そのものを見直す必要性に迫られています。そこで本セミナーでは、カスタマーサクセス室の能藤より、2020年以降の顧客行動の変化と商圏再定義について解説しました。

店舗運営と商圏分析

店舗運営では、地域の商圏の中で生活者に必要なものをいかに届けていくかが重要です。
どの商圏でどのようなターゲットを目的に店舗を出店し、そのお客様に受け入れられる商品を供給していくかを考える必要があります。

出店当初は入念な商圏調査を行い、バランスを取ったり、出店直後に対策をしながら最適化します。経年変化を見ていくと、店舗の老朽化や地域の人口動態の変化、コロナや自然災害による人の流れの変化などが起こります。

 一方で、店舗は労働状況の変化や賃金の値上げ、電気料金の値上げなどの影響を受けます。商品に関しては、価格の改定や時代に合わせた流行への対応が必要です。
店舗や商品は自社の実績データを短いスパンで分析しながら改善を行っていますが、商圏に対しては国勢調査などの長いスパンのデータしかなく、最適化が難しい状況です。
今回はその商圏について取り上げていきます。

商圏分析の主な要素

商圏分析の主な要素は、地域特性分析、人流分析、自社データとの掛け合わせによる施策検討と対策の答え合わせです。

地域特性分析では、商圏内の世帯数や居住者の傾向の変化を捉えます。人流分析では、自社や競合店の行動を見分けることができます。自社の会員データや購買実績、チラシ商圏などの自社データを掛け合わせながら、施策の検討と対策の答え合わせを時系列で追跡していくことが重要です。

人口動態の変化が商圏に与える影響

2020年以降、特にコロナ禍での自粛期間中は、消費者の行動範囲が縮小し、より自宅に近い店舗を選ぶ傾向が見られました。以前のように複数の店舗を回るような買い物行動は減少しています。現在は人流がある程度戻ってきていますが、来店頻度の低い大型モールなどは以前と同程度の商圏の広がりを取り戻しつつあるのに対し、食品スーパーやコンビニ、学習塾のように週に何度も訪れる店舗では、商圏の外側23割程度を失ったままの状態が続いています。消費者の行動はより身近な範囲で最適化され、その生活スタイルに慣れつつあるようです。

さらに、人口動態の面でも大きな変化が予測されています。2020年から2025年の間でも東京以外の全都道府県で人口が減少しており、各地域の大都市圏に労働人口が集約されつつあります。2040年頃には3人に1人が65歳以上となり、2020年時点と比べて人口が10%程度減少すると予測されています。

 今後、行政区の再編や生活圏も集約が進むと考えられ、好調であるネット通販なども物流の問題から現在のような利便性を維持することが難しくなるかもしれません。人口減少により店舗数も減少し、消費者一人一人がより遠方まで買い物に行く必要が出てくる可能性があります。

1970年と2050年の人口ピラミッドを比較すると、1970年は若年層が多い典型的なピラミッド型であったのに対し、2050年は65歳以上が全体の37%を占める逆ピラミッド型になると予測されています。日本は世界でも類を見ない速度で人口減少と高齢化が進んでいます。

将来の人口増減を地図で見ると、日本海側や太平洋ベルト地帯から外れるほど、人口減少率が高くなる傾向があります。人口の大きな変動により、地域間の格差がさらに拡大することが予想されます。

千葉県の新京成線の事例のように、30年前に大規模な住宅地開発が行われた地域では、当時の若い世代が60歳前後となった現在、子供世代の流出により人口減少が顕著に表れています。このような状況は、今後さらに多くの地域で起こり得ると考えられます。

ご紹介したのは一例ですが、店舗運営においては、こうした変化を的確に捉え、エリアごとの特性に合わせた対策を講じていくことが重要です。今後はデータ分析を活用しながら、中長期的な視点で商圏の再定義に取り組んでいく必要があります。

データを活用した商圏分析の手法

人口動態や競合店の状況、自社の顧客データを多角的に分析し、エリアごとの課題や強みを明確にする手法をご紹介します。会員数が減少しているエリアについては、競合店との比較から講じるべき対策のヒントが得られます。

黄色の店舗と赤色の店舗で商圏の比較をしています。円が大きいほど、よりたくさん多くの人が来店しているというデータです。左側の黄色の商圏は自店への来店者がとても多い状態なので、競合に対してはすごく優位性があります。

このようなエリアについては、さらに深堀して、1人1人の顧客がどれだけ購買しているかという売上高も追っていく必要があります。

一方、黄色と赤が拮抗している真ん中のエリアは、少し危険な地域として、注力して見なければなりません。このエリアの顧客を獲得するためには、自店の商品の強みやこの地域の住民の人流を理解することが重要です。

まとめ

今後、人口減少と高齢化が進む中で、商圏の再定義は小売業界にとって重要な課題となります。店舗ごとに異なる商圏の特性を理解し、エリアに合わせた品揃えや販促施策を実施していくことが求められます。そのためにも、今回ご紹介したようなデータ分析を活用し、意思決定の精度を高めていくことが肝要だと考えています。データから得られる知見を最大限に活かすことで、厳しい競争環境を生き抜いていけるのではないでしょうか。

足元商圏分析ツール「MS-View」とは

今回ご紹介したような分析を全店舗で手作業で行うのは非常に時間がかかります。
「MS-View」は、特定店舗を生活圏内とする住民の購買状況に基づいて、店舗周辺エリアを区画単位で色分けするツールです。出店エリアにおける自店の課題を洗い出すことで、効率的に販促施策や店舗の品揃えを適正化できます。また家計消費支出をカテゴリー別に設定し、店舗ごとにマーケットシェアを確認できるため、販売強化するべきカテゴリーをすぐに発見することが可能になります。

 

登壇者プロフィール
データコム株式会社 カスタマーサクセス室 室長 能藤 直輝
2004年以降、日本旅行、富士ゼロックス、セガにて、CS、経営管理、新規事業開発、セールス等の部門長を歴任
小売業との関わりは2014年以降、コンサル企業や位置情報ベンチャー企業にて、事業戦略の策定やデータ分析支援など幅広く担当