購買データ基点のエリアマーケティング手法

エリアマーケティングは、地域の特性を理解し、ターゲット顧客に合わせた効果的な施策を打つことで、店舗の売上アップと利益の最大化を目指すマーケティング手法です。しかし、どのようなプロセスでエリアマーケティングを実践すべきかという課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。今回は、データコムのカスタマーサクセス室 室長 能藤より、エリアマーケティングにおける基本的なプロセスと具体的な戦略について解説します。

エリアマーケティングの基本プロセス

エリアマーケティングにおける基本的なプロセスとして、まず地域特性とターゲット選定を同時に行うことが重要です。実店舗を構える際には、出店時の大きなコストや長期的な店舗運営を考慮しなければなりません。今その場での人口構成や商材だけでなく、5年後、10年後の地域の変化や自社の商材を適正化しながら、継続的に受け入れられるかどうかを見据えた長いスパンでの戦略が必要となります。

次に、ターゲット顧客に合わせてオフラインとオンラインの施策を組み合わせ、店頭での体験や家庭での体験、街中の動線上での施策など、多種多様なアプローチを検討します。ただし、マルチな施策を行うと一つ一つの効果測定が難しくなるという課題もあります。オンラインでは具体的な効果が見えやすく、オフラインでは大局的に捉えることで、エリアとしての価値や可能性を見出していくことが大切です。

また、店舗の購買傾向を分析する際、購買頻度や購買単価、売れ筋商品の変化などを把握することは比較的容易ですが、会員IDがない場合や個人の行動が追跡できない場合は、詳細な分析が難しくなります。そのため、現在取れていないデータをどのように収集するか、今知りたい情報が具体的に得られるかどうかを考慮しながら、マーケティング戦略を立てていく必要があります。

店舗の購買傾向分析と改善策の立案

店舗の購買傾向を分析する際、ポイントは大きく3つあります。まずは時系列での変化を捉えることです。例えば、ある店舗の売上が前年同期と比べて伸びているのか、それとも減少しているのかを確認します。次に、全店平均との比較も欠かせません。自店舗の売上が全体の平均と比べてどのような位置づけにあるのか、強みや弱みを把握することで、改善点や強化すべき点が明らかになります。

そして、良い点と悪い点の両方を多角的に捉えることです。分析の際には課題に注目しがちですが、良いところを伸ばしていくという考え方もできます。例えば、売上が伸びている店舗では、さらなる成長のために新たな顧客層の開拓や商品の拡充などが考えられます。一方、売上が減少している店舗では、来店客数を増やすための集客施策や、購買につなげるための店内導線の見直しなどが必要かもしれません。

施策立案においては、データ分析と現場の知見を組み合わせることで、より効果的な施策を打つことができます。継続的な分析と改善のサイクルを回していくことが、店舗の売上アップと利益の最大化につながります。

顧客の行動範囲と満足度を考慮したマーケティング戦略

顧客の行動範囲を把握することは、エリアマーケティングにおいて非常に重要です。自店舗の商圏がどの程度の範囲なのか、顧客がどこから来店しているのかを知ることで、より効果的なマーケティング施策を打つことができます。

商圏が狭い場合は、地域密着型の施策が有効である一方、広域から集客している場合は、交通手段や動線を考慮した施策が必要になります。顧客の行動範囲に合わせて、適切なアプローチを選択することが大切です。

具体的に店舗の業態による商圏距離と来店頻度を見てみます。コンビニやカフェは来店頻度が高い反面、商圏距離は比較的狭いです。一方、商圏距離が広い業態では、来店頻度は月に1回や四半期に1回など、だんだんと下がっていきます。
このような違いを捉え、商圏範囲や来店頻度に応じて、差別化のポイントや顧客の満足度を高めるための施策を変えていく必要があります。

来店頻度が高い業態では、1回1回の体験の満足度を高く保ち、リピートにつなげていくことが大切です。満足度が低いまま初回を体験してしまうと、2回目以降の来店が期待できなくなってしまいます。広域商圏の業態では、初期の段階で興味関心を引くアプローチが重要であり、来店後はロイヤリティプログラムなどを活用して、2回目以降の来店につなげていく必要があります。

商圏距離と来店頻度を理解することで、エリアマーケティングの戦略をより精緻に立てられます。さらに、限られた予算で最大限の効果を発揮するためにも、自店に合わせた施策を打つことが重要です。

パーソナライゼーションとコスト効率化の両立

マーケティング領域では、パーソナライゼーションという言葉が頻出します。
従前のパーソナライゼーションは、One to Oneの取り組みでいかに個別最適を図るかという観点ですが、コスト面を考慮した場合、群を意識した取り組みの方が効率的になります。

群を意識したパーソナライゼーションによって、人員に対するコストを簡略化できるので、生じた余裕でいかに課題を消化していくかというアプローチを考えていくことができるようになります。パーソナライゼーションを追求しすぎると、かえってコストがかかってしまうというケースもあるので、適度なセグメンテーションと、そこに合わせた施策の最適化が重要です。

まとめ

エリアマーケティングは、地域特性の理解とターゲット顧客に合わせた戦略の実行を通じて、店舗の売上と利益を最大化する手法です。成功の鍵は、長期的な視点を持ち、地域の変化を見据えた戦略を構築することにあります。購買傾向の分析では、時系列での変化や全店平均との比較を行い、強みを活かしつつ課題を解決するアプローチが求められます。データ分析と現場の知見を組み合わせ、継続的な改善を行っていくことで、エリアマーケティングの成功に繋がります。

足元商圏分析ツール「MS-View」とは

今回ご紹介したような分析を全店舗で手作業で行うのは非常に時間がかかります。
「MS-View」は、特定店舗を生活圏内とする住民の購買状況に基づいて、店舗周辺エリアを区画単位で色分けするツールです。出店エリアにおける自店の課題を洗い出すことで、効率的に販促施策や店舗の品揃えを適正化できます。また家計消費支出をカテゴリー別に設定し、店舗ごとにマーケットシェアを確認できるため、販売強化するべきカテゴリーをすぐに発見することが可能になります。

 

登壇者プロフィール
データコム株式会社 カスタマーサクセス室 室長 能藤 直輝
2004年以降、日本旅行、富士ゼロックス、セガにて、CS、経営管理、新規事業開発、セールス等の部門長を歴任
小売業との関わりは2014年以降、コンサル企業や位置情報ベンチャー企業にて、事業戦略の策定やデータ分析支援など幅広く担当