老舗スーパーマーケット「Kroger」に受け継がれること

昨今のインフレに伴い、米国小売市場ではディスカウントストア業態が伸長、通常のスーパーマーケット業態は新たな活路を見出す必要が出てきました。

以下画像の通り、20年前はスーパーマーケット業態の売上が市場の約8割を占めていましたが、現在は形勢逆転。

ディスカウントストア業態が6割を占めるまでになりました。

チェーン別に見ても、Walmart、Costco、Targetといったディスカウントストアがシェアを伸ばし、

通常のスーパーマーケットであるKrogerやAlbertsonsなどは徐々にシェアを奪われている状況です。

 

 

そのような状況下、KrogerによるAlbertsonsの買収が昨年10月に発表されました

2社合計の店舗数は約5,000店で、約5,300店を出店しているWalmartに迫る規模となります。

一部の州での店舗密集へ指摘があり、規制当局からの承認取得に苦戦し、数百店舗は他社へ売却される見込みではありますが、大手2社が統合されることで勢力図に変化が起きる可能性は十分にあります。

 

今後の米国小売市場を占う上で、スーパーマーケット最大手Krogerを理解することは非常に重要であると思います。

今回は、近年の取り組みなどを中心に、同社が一体どんな企業であるかを考察していきます。

米国屈指の老舗企業

Krogerは、1883年にオハイオ州で創業。

現在、競合しているWalmart、Targetが1962年に第一号店を出店していることを踏まえると、かなりの老舗であることが分かります。

当時の米国は急成長の最中。欧州から多くの移民を受け入れ、人口が急増。

1800年から1900年にかけて、およそ3,000万人増えたそうです。

伴って、年平均GDP成長率も4倍程度の高水準を維持、所得も増加。

創業の地であるオハイオ州もその流れに乗っており、1803年に米国17番目の州となって以降、移民を受け入れながら産業を発達させ、一定規模の中流階層が形成されました。

そこに登場したのがKroger。

創業者であるBarney Kroger(以下、Barney氏)は、それぞれの専門店で野菜、精肉、パンなどを購入するスタイルが、生活者にとって不便であると感じ、総合食料品店で多くの食材が揃えられる状態を目指しました。

特に、主食であるパンは多くの人が頻繁に買い求めるものであり、優先度が高いと判断。

1901年に米国の総合食料品店で初となる自社ベーカリーを作りました。

その他にも、生活者が使いやすい店舗であり続ける上で、同社がBarney氏から受け継いでいる5つのイノベーションがあります。

  1. ワンストップショッピング:上述の話に加え、その後精肉部門などを強化
  2. プライベートブランド:大量に仕入れたキャベツでザワークラウトを調理して販売
  3. 食料品の配達:Barney氏自身が馬に乗って、多くの人々に食料品を届けた
  4. 品質の監視・試験:米国の食料品店で初となる食品の科学的試験を導入、安全性強化
  5. 電子スキャナ導入:米国の食料品店で初となる電子スキャナを導入、利便性を向上

受け継がれるイノベーション

今年1月に開催されたNRF Retail Big Showで、現CEO・Rodney McMullen(以下、McMullen氏)が語った内容に、

同社で継承されるイノベーションの考え方が踏襲されていると感じました。

McMullen氏は、「店舗を持って仕事をするメリットの一つは、仕事の大変さだけでなく、やりがいを感じられること」という主旨で話し始めました。

これは、創業者のBarney氏が街や店を観察しながら、生活者の利便性を向上させてきた精神と通ずるものだと感じます。

必要とされる商品やサービスを整備することによって、買い物客に喜んでもらうことが、

Krogerの経営陣およびスタッフの“やりがい”として根付いているのでしょう。

上記発言の後、近代化を図る必要性を強調。

大前提として、“人々が食べ続けること”に変わりはないとした上で、

「生活者が店舗との対話を欲するのは、インスピレーションを得たい時か、食べたい食材を求める時に限られる」と主張。

これまでのスタイルから大きく変化、普段の買い物をオンラインで済ませる行動はもはや粒立てる事象でないと述べました。

スマートフォンで欲しい商品をリスト化し、欲しい商品のクーポンを入手の上で、注文するスタイルがスタンダード化。

このような購買スタイルは、スマートフォンやデータサイエンスなどの近代的な技術によって支えられているわけですが、

同社が一丸となって工夫を凝らすこと自体は、継承されるイノベーションの“③食料品の配達”や

“⑤電子スキャナ導入”の根底にある“便利な買い物体験を提供する”という考えと何ら変わりないものです。

それゆえに、McMullen氏もとても冷静に現在の在り方を受け入れているのではないかと推測します。

変化への対応

こういった変化は必然のこととして受け入れた上で、Krogerとして更に価値を提供していくための取り組みが進められています。

コロナやインフレによって、家庭での調理ニーズが高まったことを受けて、調理に関する情報提供に注力。

店舗やアプリなどを通して、リーズナブル、そして簡単に作れる料理を伝えることで、生活者にインスピレーションや驚きを提供しています。

 

McMullen氏は、インフレに伴い、自社顧客の半数近くが経済的に困窮していることにも触れ、対応策を述べました。

まずは、クーポンを強化していると言います。生活にかかるコストへの意識がこれまで以上に高まり、クーポン取得に積極的な顧客が増えたそうです。

取引メーカーなどと連携し、他のコストを圧縮しながら顧客に適したクーポンを発行し、少しでも生活が楽になるように支援。

また、2022年には有償版の顧客会員プログラム“Boost by Kroger”をリリース。

 

Kroger傘下Smith’sの駐車場に掲げられたBoostの案内版

 

有償版は年額59ドルと同99ドルの2つのプランが用意されており、後者は2時間以内の配送サービスを受けることが可能となっています。

会員費はかかりますが、無料配送、お得なクーポン、給油時(Krogerの多くの店舗には、自社運営のガソリンスタンドが併設されている)のポイント倍率アップなど、多くのメリットを享受出来ます。

Boost公式サイトには、「年間1,000ドル以上お得になる」と記載されており、生活費抑制に貢献することをアピール。

更に、多種多様なプライベートブランドも生活者を支えているとのこと。

2018年に買収したミールキットの“Home Chef”や2022年にリニューアルされた低価格ブランド“Smart Way”などの売れ行きが好調な模様。

先日Home Chefのチキンを食してみましたが、安価なりに、ある程度の味・食感を提供しているなという印象でした。

このように、生活者の実情を捉え、対策を講じる動きについても、創業当初からBarney氏が持っていた価値観と一致しているように感じます。

既述のイノベーションにある“①ワンストップショッピング”、“②プライベートブランド”、“③食料品の配達”などが、現代に適した形となって、生活者を支えていると言えそうです。

おわりに

ここまで、Krogerについて考察してきました。

140年の歴史で、恐慌・テロ・疫病蔓延などの苦しい状況を経験しながらも、変わらず第一線を走ってきた事実が企業としての強さを証明しています。

創業者Barney氏が構想した総合食料品店の姿を受け継ぎながら、時代に適応し、生活者を支えているからこそ、変わらず支持を得ているのでしょう。

“価格”という観点では、台頭するディスカウントストアに敵わないところもあり、近年はシェアを落としていました。

Albertsonsとの統合によって、経営や店舗運営などを効率化し、コストを抑えながら価格でも競争力を付けていくのではないでしょうか。

その上で、KrogerとAlbertsonsが築いてきた商品力や利便性を武器に、現行シェアを超える存在感を出していく可能性を秘めています。2024年も目が離せません。

 

 

執筆者紹介
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
掲載情報
こちらの記事は、販売革新2月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。 出典:販売革新2023年12月号
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