初開催!アジア最大級の流通小売業界向けイベント「NRF Retail’s Big Show APAC 2024」後編

本記事では2024年6月に開催されたNRF APAC 2024の様子をレポートします。
今回はオーストラリアの「Wesfarmers」のセッションを振り返ります。

注目セッション②|Wesfarmers

OneDigital Managing DirectorのNicole Sheffieldは顧客データ活用を語りました。同社に馴染みの無い方も多いと思うので、概要をお伝えします。オーストラリア売上2位の小売企業で、スーパーマーケット、アパレル、文具など多岐に渡る業態を抱えています。

同社の事業ポートフォリオ

同社では無料会員プログラム「flybuys」と有料会員プログラム「OnePass」を提供。複数の業態・チェーンで利用が可能です。そのため、個々人の購買行動を多面的に可視化できるデータが蓄積されています。

同氏はデータ活用に向けた文化醸成の重要性を強調。その重要性に気づいたのは、彼女が前職であるメディア企業News Corp.に在籍していた時。ライターは記事を書くことに注力。一方、Webページ分析担当者はヘッドフォンを付けてひたすら集計。デスクの位置も離れており、両者の会話は皆無だったそうです。そこで、彼女はデータで明らかとなった記事の閲覧者や閲覧数をもとに、ライターと記事タイトルを議論し、変更を強行。すると5分後には1秒当たりの閲覧数が14,000から21,000まで伸長したとのこと。その出来事を機に、データの価値が伝わり、ライターと分析担当者が一緒に座って同じスクリーンを見ながら議論するようになったようです。

彼女はWesfamersでも同じことに挑戦しています。データからOnePass加入者がどのような行動を取っているかを明らかにした結果を公開。

OnePass加入者の傾向

加入直後に利用が増加し、その後も利用チェーン数や購入頻度が伸びていることが分かります。傾向が可視化されると、加入者を増やす意義や加入後に注視すべき数値項目がクリアになり、全社が同じ方向を向けるようになります。そして、何らかのアクションを取った後にも数値の動向を確認する文化が醸成されていきます。彼女は「組織文化的なアプローチを小売業にも持ち込んでいきたい。重要な数値が何かをみんなで理解して、向上させる道筋を立てていくことが必要だ。」と述べました。

終わりに

今回は2セッションを取り上げましたが、これら以外にも興味深いものがたくさんありました。冒頭でもお伝えした通り、各国の状況が異なるため、おいそれと傾向を述べることはできません。しかし、ニューヨークで語られた米国企業の事例と比べることで、APAC企業の共通項が浮かび上がってきます。米国ではオンラインチャネルやアプリの構築及び浸透がひと段落。“Unified Commerce”を掲げ、オンライン・オフライン問わず、より良い顧客体験の創造に着手。対して、APACではオンラインでの販売機会や顧客接点を創った段階。どちらかというと小売企業目線で、いわゆるオムニチャネル、OMOの発想です。

更に顧客との関係性を深めるためには、顧客目線に立つことが肝要。顧客1人をとってもニーズやウォンツは多種多様。オンライン、オフラインに拡張された顧客接点を活かし、必要なタイミングや場所で、必要な商品や情報を提供できるような体制を整えていけるかが成否を分けるのではないでしょうか。

執筆者紹介
小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒、MBA 取得
株式会社みずほ銀行での法人営業、株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコム株式会社へ入社。
創業30年を迎える流通小売業向けシステム会社がより大きく、そして多面的に業界へ貢献できるよう、自社の企業・組織基盤強化に注力。
取締役として財務会計、人事、マーケティングなど経営全般を管掌。
また、米国・欧州等のビジネスイベントや店舗に出向きながら海外リテールトレンドを研究。
「宣伝会議」や「販促会議」への寄稿や「販売革新」での連載を担当するなど、業界への発信活動を続ける。
自社メディアでも月数本の記事を公開。