情報の透明性を強く意識したアパレルブランド|海外流通企業スタディ「Reformation」
コロナ禍の2020年、2021年は通勤通学や娯楽が激減。着飾るシーンが無いため、アパレル市場は打撃を受けました。2022年途中からコロナが落ち着き、外出が増えたことで、ニーズは回復、2023年の実績はコロナ前を上回る市場規模に達しています。
その市場で最大のシェアを占めているのはアメリカで、3,260億ドル(約48兆円)、シェア約20%となっています。
世界のアパレル市場を牽引するアメリカですが、盛者必衰で衣料品店のBARNEYS NEWYORKが経営破綻、大手百貨店のMacy’sやJC Penneyは多数の店舗を閉鎖。これまで第一線を走ってきたプレーヤーは不振に喘いでいます。そのような状況下、新たな形態の「D2C(Direct to Consumer)ブランド」は業績を伸ばしています。
類似する形態にZaraやユニクロに代表されるSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)がありますが、SPAは店舗販売中心なのに対して、D2Cは店舗を持たず自社ECサイトなどを中心に販売する点が大きく異なります。
SPAが実現した中間業者を極力省き、工場と店舗を繋ぐシンプルな商流に加えて、店舗を運営するコストも抑えたことで、高品質な商品をリーズナブルに提供できることがD2Cブランドの魅力です。
アメリカのD2Cブランドをリードする1社に「Reformation」という企業があります。同社はどのようにして消費者の支持を得て、成功を収めたのでしょうか。
2024年1月にニューヨークで開催された世界最大級の流通小売業向けイベント「NRF Retail’s Big Show」でCEOのHali Borenstein氏(以下、Hali氏)が語った内容を中心に、同社の成功要因やD2Cブランドならでは工夫などを学んでいきたいと思います。
15年に渡って、サスティナブルな製品にこだわり続けるブランド
同社は、2009年にデザイナーのYael Aflalo氏(以下、Yael氏)によってロサンゼルスで設立されました。Yael氏は、前職時代に中国の工場を訪れ、製造工程で膨大な素材が廃棄されたり、大量の水やCO2が排出されたりしている事実を知ったそうです。その時に感じた問題意識の解決を動機として、ファッションと環境保全を両立する同社の設立に至っています。
フォーマルで女性らしいデザインと持続可能な素材の使用や製造方法で支持を集め、人気が上昇。Emma WatsonやTaylor Swiftなどのセレブが着用したことで、更に知名度が高まりました。
成長が続いていた最中、同社に対する人種差別の疑念が発生。Yael氏は、白人中心の考えがあったことを認め、2020年に辞任。後任として現CEOのHali氏が就任し、軌道修正を行い、2023年は売上約3.5億ドル(約530億円)に達しています。
Yael氏はNRF Retail’s Big Showの講演において、「We make killer clothing without killing environment(=我々は環境を破壊せず、イケてる洋服を作っている)」と自社の特徴をジョーク交じりに言い表すとともに、“サスティナブルな製品を提供し続けるためには、自社が利益を生める体制を作ることが大切”と述べ、営利事業として環境保全に取り組んでいることを強調しました。ここからは、具体的な取り組み内容を見ていきたいと思います。
消費者からの共感を得るために大切にする“透明性”
同社の店舗を訪れると、木で作られたプレートが目に入ります。そこには以下の文言が記されています。
店舗運営で意識している環境に配慮した取り組みが説明されています。店内の電気から陳列用ハンガーや配布するショップ袋まで細部に渡る徹底ぶり。店内にプレートを設置することで、来店した消費者は一目で同社の姿勢を理解することが出来ます。
「The Sustainability Report」について
また、同社のホームページには、どの程度環境保全に貢献しているかを伝える「The Sustainability Report」が掲載されています。ここでは記載例をいくつかご紹介します。まずは、素材に関する記載。同社では、環境への影響度に応じて、素材をAからEまで以下5つのランクに分けています。
A Allstars:再生可能、プラントベース、或いは何度も作り直せる素材
B Better than Most:環境への影響がより少ない繊維、或いはリサイクルされた繊維
C Could be better:一般的に使用される繊維の優れた代替品で今後改良の余地があるもの
D Don’t use unless certified:オーガニック、動物福祉などいずれか基準を満たすもの
E Eww, don’t use:環境または社会への負荷が高過ぎるもので基本的には使用しない
そして、同社の使用する素材は92%以上がAまたはBのランクのものであることを報告しています※1。A~Eランクそれぞれを頭文字とする短文を添えて、分かりやすく表現しているところにも、消費者に正しく伝えていこうとする姿勢が感じられます。
続いては、製法に関する記載。自社の製造過程で排出したCO2の量や使用した水の量を、従来の製法で想定される量と比較しながら公開しています。
・CO2:従来70,376トン、Reformation 27,006トン、削減 43,370トン(38%減)
・水:従来 12,520ガロン、Reformation 6,916ガロン、削減 5,603ガロン(55%減)
レポートによると、CO2削減量は自動車9,651台を道路から取り除いたことと同等、水削減量はオリンピックサイズのプール8.48個分に相当するとのこと※2。イメージが湧きにくい事項を、例えを交えて分かりやすく解説しています。
以上のように、環境へ配慮する取り組みの実績をしっかりと公開、そして伝わりやすい表現にすることで“透明性”を担保し、消費者からの信頼を得ています。
※1,2 2023年第3四半期「The Sustainability Report」参照
サステナビリティとビジネスを両立させる難しさ
創業以来、サステナビリティを徹底し、環境・社会への貢献、およびビジネスの成長でそれぞれ結果を出している同社ですが、両立させる難しさもあるようです。
上述の通り、同社は女性向けのフォーマルな洋服を中心に製造販売を行い、売上の65%ほどがドレス類で占められていました。
ところが、コロナ蔓延によってフォーマルな洋服のニーズが激減。そこで売上を増やすための新たなカテゴリーとして、自宅時間でも着用できるようなスポーティーでカジュアルなラインの企画開発を開始。
しかし、商品の開発を進めていくなかで、サステナビリティの観点で自社が定める基準を満たす素材がなかなか見つからないという問題が発生。それでも妥協することなく、基準を満たす素材を探求し続け、商品をリリースするに至ったそうです。
本来想定していたスケジュールから約9か月も遅れたため、その間に作れた売上を逃す結果となり、ビジネス上はマイナスの影響が出てしまいました。それでも、CEOのYael氏は「この決断は正しかった」と説明。
消費者はサステナビリティに対する同社の姿勢に共感しているからこそ、支持しているわけであり、このタイミングで短期的な売上を優先した決断をするのは賢明ではないと考えたようです。
この時の英断の甲斐もあり、スウェットなどのカジュアルなラインが伸長したことで、現在のドレスの売上シェアは40%ほどになっているそうです。
おわりに
アメリカでは、サステナビリティの機運が高まり、消費者が企業や商品の姿勢を理解し、自分の考えに合ったものを選ぶ傾向が強まっています。
その傾向とReformationの戦略はまさに合致。ここまで見てきたように、同社は情報を公開するのみならず、しっかりと伝える工夫を凝らしています。だからこそ消費者の理解も進み、共感を得られたと言えます。
アメリカのみならず、日本でもサステナビリティ意識が少しずつ高まっています。各企業にとって、どのような取り組みを進めていくかを考えることは勿論必要不可欠ですが、併せて消費者への伝え方というのも考えていく必要があると感じます。
社会・環境にとって正しい取り組み、そして分かりやすい伝え方を意識することが今後とても重要になるのではないでしょうか。
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