「リテールメディアの現在地」Z世代を中心に浸透する新たな消費スタイルVOL.1
今回は、今後の消費を支えるZ世代(1990年代後半〜2010年生まれ)の消費スタイルについて紹介します。
主に、サブスクリプション、コト消費、エシカル消費の3つに分け、アメリカの事例を交えつつ、
弊社取締役 経営推進部部長の小野寺裕貴に話を聞ききました。
お金の使い方は体験、楽しさ、エシカルへと移行
昨今、日本ではインフレが深刻化していますが、アメリカはどうでしょうか。
小野寺:アメリカは日本以上に深刻であり、22年11月のデータで見ると、
日本の消費者物価指数は前年同月比で3.8%。
対してアメリカは6.5%で推移しています。
22年5月をピークに高止まりし、徐々に戻りつつある傾向です。
「NRF Retail’s Big Show 2023(National Retail Federation:全米小売業協会)」で発表された調査結果によると、
アメリカの75%もの人が、経済悪化が自身の生活に影響を与えると回答しています。
そして65%が「商品価格の上昇」を、懸念事項のトップ3に挙げています。
そうした背景から、44%の人が貯蓄を切り崩して、商品を購入していることが分かりました。
日本でも同じ傾向があるように思いますが、こうした社会情勢を受けて、
生活者の志向に何か変化は見れるのでしょうか。
小野寺:まず、節約志向の高まりから、必要なときに必要な分だけ利用するという、
無駄を省いた消費スタイルが多く利用されています。
具体的なサービスでいうと、「サブスク(リプション)」ですね。
また、お金を使う方法として物品よりもイベントやレジャーなどへシフトする傾向が見られます。
よくいわれるモノ消費からコト消費への転換です。
これにより流通側は、リテールテインメント※1の重視や、
そもそもモノを売らない店というのが出現しています。
そして、高級であればいいというわけではなく、そのコンテンツの背景にある思いやストーリーを重要視する、
「エシカル消費」へと志向が変化しているといえるでしょう。
※1 リテールテインメント:小売(Retail)と娯楽(Entertainment)を合わせた造語で、小売ならではのエンターテインメントを指す。
支出の無駄を省くサブスクサービス
生活者の志向の変化を三つ挙げていただきましたが、それぞれ具体的に教えてください。
小野寺:まず、サブスクに関して、僕なりにサブスクサービスの分類を分けてみました。
サブスクは大きく「製品/サービス提供タイプ」と「購買支援タイプ」に分かれます。
前者は、さらに①補充型、②キュレーション型、③利用権型に分類できると考えています。
①は、日々消費する商品を決まったタイミングで届けるサービスです。
常に必要となるものですので、注文のし忘れや買い忘れの防止に役立ちます。
②は、月1回程度の頻度で、顧客に適した商品を箱詰めして届けるサービスです。
コスメやアパレルなど、自分に合うものを知りたい、いろいろ試したいというニーズに応えてくれます。
③は、製品を所有せず一時的に利用できるサービスです。
高額で購入にためらう場合でも、レンタルという形で利用するとができます。
購買支援タイプというのは、送料無料や即日配送、返品対応など、買い物をスムーズにするサービスです。
頻繁に利用する店であれば、そうした送品購入に付随するサービスがあることで、
利用メリットを感じることが出来ます。
アメリカのサブスク事例を教えてください。
小野寺:製品/サービス提供タイプの①補充型の例は、
アメリカのディスカウントスーパーマーケット(SM)「Target(ターゲット)」です。
継続購入するプロテインやサプリなどの定期購買を、割引によって誘引しています。
店舗では、定期購買によってどれだけお得になるかを表示し、
サブスク会員になってもらった後は、アプリ上で管理します。
オンライン・オフラインチャネルを活用した、定期購買の販促ですね。
また、 ペット用品のEC「Chewy(チューイー)」も、補充型サブスクサービスを提供しています(図表2)。
ペットフードは定期購入するものですので、サブスクと相性がいいです。
サイト上では、通常の検索結果にも定期購買との価格差を表示し、お得感を訴求することで入会を勧めています。
②キュレーション型サブスクの先駆けといえるのが、
10年からスタートした「Birch Box(バーチボックス)」です。
会員登録時に美白、シミ予防といった美容に関するゴールを設定することで、
適したランダムな商品が毎月届く仕組みです。
③利用権型のサービスで代表的なのが、
家庭内エクササイズ製品とオンラインフィットネスを合わせた「PELOTON(ペロトン)」です。
アメリカでは知名度が高く、高価な機器を月額でレンタルすることができるサービスです(図表3)。
ただレンタルするのではなく、トレーナーによるトレーニングメニューを閲覧することも可能になっています。
バイクに設置されたモニター画面で、人気講師による指導を受けることができる点が、
ユーザーの継続を促す役割にもなっています。
もう一つの例を挙げると、「RENT THE RUNWAY(レント・ザ・ランウェイ)」も、
服を持たずに楽しめるサブスクサービスです。
月額89ドルで最大5アイテムの服を借りることができます。
購買支援タイプだと、やはり利用頻度の高いSMでの展開が多いでしょうか。
小野寺:そうですね。 大きいところでは「Walmart(ウォルマート)」が挙げられるでしょう。
20年に開始したサブスクサービス「Walmart Plus」は、すでに3000万人を超える会員を獲得しています。
このサービスでは、無料配送、返品対応だけでなく、旅行の予約や動画ストリーミング、
ガソリンスタンドの割引など、さまざまなメリットが得られます。
また、最近ではキャッシュバックサービス※2を提供するibotta社と連携し、
特定商品の購買でポイントが付与される「Walmart Rewards」もスタートしました。
アメリカは日本のように、ポイントで割引になるという仕組みがあまり浸透していませんが、
ウォルマートがスタートしたことで注目度も高まっています。
※2 キャッシュバックサービス:アプリ上に提示される対象商品を購入した後、レシートを登録するだけでキャッシュバックが得られる仕組み。
各社サービスで共通する点はありますか。
小野寺:インフレ下ということもあり、各社ともサブスク加入で
どれほどの経済的メリットがあるのかを明示していますね。
「メンバーシップになると、年間○ドル安くなる」といった文言を
サイトトップや購入画面に持ってくることで、興味を引くように工夫しています。
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
こちらの記事は、販売革新11月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:販売革新2023年11月号
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