「リテールメディアの展望」グローバル市場と日本の挑戦についてVOL.1
小売企業が保有する消費者の購買データを活用し、広告を効果的に配信する新たなビジネスモデル「リテールメディア」。
コロナ禍でECといったオンラインビジネスが急速に発展したことで、リテールメディア市場も拡大しつつあります。
世界規模で見たとき、リテールメディアはどう活用されているのか。 弊社取締役経営推進部部長の小野寺裕貴にインタビューしました。
世界のリテールメディア市場はテレビ広告市場の半分まで到達している
ー海外のリテールメディアの概況について教えてください
小野寺:世界のリテールメディア市場は、2023年で12兆円規模のビジネスに成長しています。
特に発展が著しいアメリカでは、23年で6兆円の支出額でした。
成長率で見ると、コロナ禍の20年で前年比57.3%増と顕著な伸びを見せました。
その後、成長率は鈍化するものの、支出額は年20%増程度で伸び続ける予測です。
これまで、広告市場を席巻していたのはテレビ業界でしたが、
世界各国でテレビの広告市場は停滞しています。
テレビ広告市場は、23年で約26兆円であることから、
リテールメディア市場が半分まで迫る勢いであることが分かります。
ーそもそも、リテールメディアが優れている点はどこにあるのでしょうか?
小野寺:リテールメディアのメリットは、
①ターゲティング精度が高い、②購買とのつながりが強い、
③実績に基づく検証ができる、④複合的アプローチが可能と、大きく4つあります。
①は広告を出したい相手にビビットに出せること。
裏側に購買データがあるため、履歴に基づいた商品提案ができます。
②は検索結果に対して、能動的アクションを起こすことができること。
検索結果に近い広告を優先的に出したり、カテゴリごとに広告を出したりすることができます。
③は購買データを保有することができること。
データがあることで、①のような行動を起こすことができます。
④は1人に対し、ECや実店舗での広告など多面的なアプローチができることです。
ー広告主にとっては、どんなメリットがありますか?
小野寺:最たるメリットは、これまで可視化しきれなかった購買結果が見えるようになることです。
また、関連性の高い環境でターゲット顧客にアプローチができるため、
消費者がほしい瞬間に、的確な商品を表示することができ、購買率も上がります。
その他にも、ファーストパーティデータのターゲティングを改善できたり、
小売企業との関係を強化できたり、
リアルタイムでのコミュニケーション改善ができたりと、さまざまなメリットがあります。
一方でリテールメディアには課題もあります。
それは、リテールメディア側から広告主へ提出するレポート精度が低い点です。
また購買データとはいえ、詳細なデータは機密性が高く共有されることはありません。
これは小規模企業であるほど顕著で、広告主は不満を抱くことになります。
そのため広告主の76%は、大手リテールメディアの利用を望んでいるのが現状です。
ECに保守的な欧州は日本に近い市場?
ー他の国のリテールメディア市場ではどうでしょうか。
小野寺:例として、欧州とアメリカのリテールメディア市場規模を比較してみましょう。
アメリカの人口は約3.3億人で、投資金額(24年予想)は約7.7兆円。
欧州は人口約7.5億人で、投資金額が約3.8兆円(26年予測)です。
欧州は人口比で見ても、まだまだ成長の余地があります。
ヨーロッパのリテールメディア市場を見る限り、保守的であることが分かります。
これは日本の市場傾向に近いと考えています。
ただ、欧州でも国によってばらつきがあり、
リテールメディアを提供するECの割合で見ると、フランスが65%である一方、
イタリアは8%と大きな差が生じています。
またEC割合が高いフランスでも「Carrefour(カルフール)」や
「COSTCO(コストコ)」といったグローバルチェーンが、大半を占めています。
ーリテールメディアの推進にあたっては、どういったことが必要なのでしょうか?
小野寺:小売業、メーカー、顧客のメリットを意識することが肝要です。
リテールメディアによって、小売業は必要な品揃えが分かりますし、
メーカー側は商品ごとのポテンシャルを把握することができます。
そして顧客は自分に適したオファーが得られると、三方良しを実現します。
Amazonが23年5月のカンファレンスで発表したものが上の図です。
業界間のリレーションシップを築くために大切なことを3つ掲げています。
また、Amazonではリテール担当者、広告担当者と
メーカー側のEC担当者、ブランド担当者が同じテーブルを囲んで、
売上・広告などデータを共有する取り組みを行っています。
これまでは、リテール担当者とメーカーのEC担当者が売上を、
広告担当者とメーカーのブランド他社が広告と、それぞれ別々で話し合うのが通例でした。
そのため、売上と広告データの共有がなされず、正しい顧客理解ができていませんでした。
この4部署の担当者がデータを共有することで、
一丸となって正しい購買体験へと顧客を誘導することができると説明していました。
各社、担当者が分かれている中では、このような取り組みはなかなか難しいでしょうが、
新たなやり方で、新たな売上、利益を創出することを考える必要があると思います。
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
こちらの記事は、販売革新9月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:販売革新2023年9月号
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